2022年1月15日土曜日

近所の床屋探し

 正月前に散髪をして新年を迎えるというのがばーちゃんの教えというか、習慣というか、日本人には一般的なことだと思っているが、安定したリズムの中で生活していないとこんなことでさえ疎かになってしまう。去年暮れにはとうとう散髪に行けなかって、いやズボラをこいて行かなかったので今日に至っては落ち武者のような悲惨な状況になっていた。

 10年くらい前から髪型は坊主である。髪が薄くなっていたので無駄な抵抗はしないし、ヘルメットを被るのでいちいちセットの乱れなんかを気にする必要もない。何といっても坊主なら散髪代がびっくりの680円(正確には覚えていない)。1000円カット的な格安チェーン店でのカットのみ価格だが最初は驚いたものだ。

 そんな散髪時代が10年くらい続いたが、去年の11月に益城町に越してきての初めての正月を迎えるにあたり当然散髪に行かなくては思うのだが、例年にない寒さの厳しい冬である。わざわざ寒い思いをしてまで隣町の格安カットまで行くのは費用対効果的に疑問でもあるし、隣町までの間には何軒ものクルクル回っているサインポールが目につくのだ。わざわさ遠くまで出かける必要はない。

 だから今回の散髪を機に格安カットはやめにした。やめにしたのはいいがどこかのクルクルに決めなければいけないので一応ググってみたが「益城町 理髪店」でヒット数17件、これをいちいち調べるのは面倒極まりない。だからテントから単車で町の中心部に走ってみて最初に目に入ってクルクルの店に決めることにした。「近所の床屋」探しである。

 アーデル守嶋 最初に目に入ってきたクルクルだ。店舗の前の駐車場に単車を停めた。窓ガラス越しに中の様子が伺える。客は誰もいない、店主らしき男性もこちらの様子をうかがっている様子である。店の扉を開け入店。案内されたバーバーチェアに座り「3mm坊主で」と伝えると早速バリカンが用意されカットに入る。店主は30代半ばだろう。他に店主のお母さんらしき人が手際よく店主のサポートをしている。店内の隅には猫のトイレらしきものがあるが、猫の姿は見当たらない。こ洒落た雰囲気の店内ではないが、目の前の鏡に曇りはなく綺麗に磨かれている。バーバーチェアは使い込まれているようで重厚感があり、その動きはスムーズでソフトな感じではなく機械的でガチャンガチャンといった感じだがわたしにはこれがとっても好印象なのだ。

 心地よくバリカンはすすんでいく。店主が「顔そりはどうしますか」と尋ねてきたのでもともとカットだけと思っていたが、「お願いします」と答えた。「近所の床屋」感をもう少しの間味わっていてみたかったからだ。

 顔を覆う蒸しタオルの按配がいい。湿り気と温度が絶妙だ。剃りは時間をかけて丁寧にやってくれている。仕上がりを手で撫でてみると丁寧さが改めてわかる。

 「お客さん仕事帰りだったんですか?」

 「いや土日は休みですよ」

 「ごつい靴履いてらっしゃるんで仕事帰りかなと思ったもんで」

店主もこちらの素性を観察しているようだ。初めての客だから当然だろう、散髪を終え代金を支払を済ませると、単車が停めてあるところまで見送るに出てきてくれた。

 「カブいいですね」「このてのカブの価値どんどん上がってますからね」

 「いやいや乗りつぶしのカブですから」と会話を交わし店を後にした。猫好き、単車好き、丁寧な顔剃り、この時点でリピート決定である。

 「パチンコ屋と神社は地元にかぎる」と以前書いたが、床屋も地元に根付いた店に限ると思う。

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